
さて、団塊の世代の結婚・入居が一段落した1980年代に入ると急激に家具の購入の仕方に変化が生まれます。家具を機能性だけで捉えるのではなく、生活を彩るファッション性や意匠性といった付加価値部分の重要性が増加します。
その背景には「欧米ライフスタイルへの憧れ」がありました。衣料業界ではひと足早く、欧米のライフスタイルが取り入れられました。「VANジャケット」がアメリカのアイビーリーグ文化を紹介し日本にトラッドファッションを根付かせたのを皮切りに、1982年には、コムデギャルソン、ワイズ、ビギ、ニコル、イッセイミヤケ、ヒロココシノなどの日本人デザイナーによる東京コレクションが始まり、その後、イタリアンインポートブームへと引き継がれました。
そういった過程で、洋服だけでなく生活感そのものも欧米化しようと、和室の減少、フローリングの一般化など、「住宅の洋風化」が進行しました。それらの動きに当時、最も敏感であったのが、生活提案雑誌「HANAKO」に反応したいわゆる「ハナコ世代」(図23)の人達です。それらの世代の以前と以降では、ライフスタイルが激変します。
生活雑貨は、商店街のお店で買うのではなく、VANグループが提案した「オレンジハウス」などの小型輸入雑貨店や、渋谷で開業した「東急ハンズ」、それを追うように出店された「LOFT」などの大型生活提案店舗、「無印良品」などの、欧米の生活感を感じることができ、かつ、そこで購入すること自体が楽しいある種の「コンセプトショップ(こだわりや統一感のあるテーマに沿った品揃えを行う店舗)」で買物するようになりました。
このころより、家具や生活雑貨の購入においては、価格や機能性よりも、「コンセプト」を重要視するようになったと考えられます。
ざっくばらんに言えば、洋服を買うときに養われたセンスで、「所帯じみていない」「団地のおばちゃんにはなりたくない」(図24)であったと考えられます。
先進的なデザイナーによって意匠性が増した商品(ブランド)を購入することによって、これまでの世代とは違う「差別化」された自分を表現する時期であったと考えられます。この世代以降、1990年代までは、「差別化(ブランド)」がキーワードとなります。「これに頼れば私もおしゃれな生活ができる!」と思われた時代です。
アニエスベーを展開していたサザビーグループの「アフタヌーンティ」、ワイズグループの「Y's For living」など、アパレル企業の家具・生活雑貨業態への進出が多かったのはこのころです。ライセンス生産を入れれば、どれほどのアパレル企業が家具・雑貨市場に進出したでしょうか。
しかし、バブル経済崩壊後は、創造的消費の時代に入ったため、単に商品のデザインや名前だけの差別化に留まっていたブランドは淘汰されることとなりました。
現在の若い女性のファッションは、鋭いイメージ、肌の露出が多い「109系ファッション」と、コレクションやハリウッド女優を意識した「セレブ系ファッション」。そして、ロックイメージあるいはグランジイメージ(音楽ジャンルの1つで、「薄汚れ」という英語の“ grungy”が語源でグランジ・ロックとも呼ばれる)の流れを継ぐ「リミックス系ファッション」に三分されます(図25)。
109系ファッションやセレブ系ファッションは、どちらかと言うと「異性」を意識して着飾るファッションで、リミックス系ファッションは「自分自身のこだわり」や、同性を意識して着飾るファッションと言われてきました。しかし、ここ最近では、その傾向が逆転してきています。109系ファッションは、同性で話題となるファッションとなっています。
最近の若い男子は、出世意識や異性に対しての意識が、前の世代に比べて極端に薄く(草食系男子の特徴)、激しく異性を意識させる服装を敬遠する傾向があるようです(ファッション専門学校でのインタビューより)。
一方「女の子らしさ」を含んだリミックス系ファッションに対しては安心感が出るようで、合コンなどでも、女の子らしいリミックスファッションの女子の方がモテるという話も聞きます。
社会の情勢が不安定なので、OLとしてのキャリア形成より、安全にお嫁入りするという意識が広がりつつある中、異性を引き付けるファッションとして、リラックスした雰囲気のでるリミックス系ファッションが進化しているようです。
そういった中、リミックス系の一種で、「森ガール」というファッションが今、流行りつつあります。基本はベージュ系の安心感のあるカラーで、重ね着ファッションですが、デザインに全く肩意地を張った部分がありません。デジカメを持って、街をブラブラ、雑貨店や、手作りのビーズやカフェでまったりするようなオフのライフスタイルがまるで「森の中にいそうな女の子」のイメージだそうです。 競争の激しいファッションのお店では、ワンピースなど緩めの品揃えとかっちりしたジャケットなどと組み合わせて、「売れそう」な洋服の品揃えをしています。とにかく、一斉にみんなが真似るので、この森ガールというファッション区分が今後生き残るかは定かではありません。
原宿で展開されているH&Mやフォーエヴァー21などの海外ファストファッションが、「異性」を意識して着飾るファッションであれば、高円寺や阿佐ヶ谷、下北沢といった落ち着いた街で、その逆の「安心感のファッション」が流行してきています。
これらの女性たちが結婚するころには、好まれる家具のテイストも変化してくるでしょう。収入が減る経済事情の影響で、「癒し」や「ナチュラル」「シンプルライフ」「かわいい感じ」「エコ」、そして「女の子らしさ」といったイメージを若い世代は洋服だけでなく、家具のデザインやファッション性にも好んでいくことは間違いはありません。

インターネット高速通信普及と企業のインターネット販売の進化も、家具を含めた消費財の購入パターンを激変させました。PC(パソコン)だけでなく、今では携帯電話でのネット利用が2008年末時点で9091万人となり急速にネット社会となっていることが伺えます。しかも、13歳~49歳での携帯インターネット利用は7割を超えています(図26)。
消費者は減少する収入を補うために仕事をする時間が多くなったり、また、仕事以外の時間では、自分を磨く行動(習い事、情報交換など)、子供の世話(赤ちゃんとのふれあい、塾への送り迎えなど)、自分の癒しの時間を確保したりと忙しく、店舗が開いている時間に合わせることが困難で、買物の優先順位が極めて低くなっています。
一方、インターネットは24時間であり、様々な検索サイト、比較サイトが展開されているので、時間の制限なく商品を比較、購買できるようになりました。また、支払い方法、運送の時間指定、購入後の返品承認など、企業側のインフラも整備され、インターネットによる買物にほとんどストレスを感じなくなっています。
従って、品質がある程度一定している商品(書籍など)はインターネット経由で購入されることが多くなっています。一度使用した、品質が分かるなどの「買い足し品」はインターネットで購入というパターンが一般化してきています。スマートフォンと言われる携帯電話版型PDA、そして、アップル社が提供しているi-phoneなどこれらのデバイスを利用する消費動向が増えるかと思います。
一方、品質や機能が分かりづらいものは、実際の店舗で見て、複数店舗で比較しながら購入します。「買回り品」と呼ばれるものです。しかし、何が「買い足し品」で何が「買回り品」なのか、消費者個人の事情で判断が異なってきます。基本的には、今まで自分の購買行動の中で経験したことがない商材が「買い回り品」となると考えられるのですが、これすら、インターネットで企業のサイトや口コミサイトで調べると、大概のことは理解できるようになりました。
小売業では、消費者がモノを購入するまでの心理状態を「AIDMAの法則」というもので判断し、売上につなげていました。どう注意(ATTENTION)を喚起し、興味(INTEREST)を持ってもらい、欲しくなったとき(DESIRE)に説明し、記憶(MEMORY)してもらい、また、考えてもらい、買って頂く(ACTION)という法則です。学生でも知っています。
予備知識無く店舗を買い回りするお客様に対しては今でも非常に有効な法則ですが、ここまでインターネットが発達すると、いくら大きな買物でさえも、その法則が崩れてきているのです。
最近は「AISASの法則」などと呼ばれている法則がありますが、全ての小売業でこの法則は意識する必要があります。最初の、「どう注意(ATTENTION)を喚起し、興味(INTEREST)を持ってもらい」までは同じですが、消費者は買い物する際に、ネットで検索(SEARCH)し、即購入あるいは、店舗に出向いて購入(ACTION)し、満足度をネットに書き込みます。それを他の消費者が見つけて情報を共有(SHARE)し購買の判断とします。この検索・共有部分が重要で、これに掛からない店舗や商品の反応は鈍くなってしまいます。また、評判が悪くなるとその影響も大きいです。
例えば、ソファーを購入する場合、消費者はソファーについて徹底的にネットで調べつくします。そのままネット“バーチャル”で購入されれば“リアル”な店舗の売上は減少します。また、店舗に来て頂いたとしても、ソファーに関する情報はすでにプロ級になっており、下手をすると店員より良く知っていて説明のしようもなくなります。そこでお客様を満足させることが出来なければ、ネットに何を書かれるのかも解らず、店員にとっては受難の時代と言えます。
ネット上の情報交換では理解できないほどの付加価値を現場で実現し、来店客に如何に「体験」して頂くかを考えることが重要です。
これらの意識の根底にあるのは、ということです。
これまでたくさんの失敗を経験してきました。買物の失敗、土地・株やゴルフ場などへの投資の失敗、転職の失敗、就職活動の失敗、結婚生活の失敗(離婚の増加)、キャリア構築一辺倒の失敗(負け犬)などです。これ以上失敗したら後がない。現在、多くの消費者が、このように考えていると思われます。なのです。それが要因となって非常に自分本位になり、自分だけは失敗したくないという意識が強くなっています。悲しいことに相談は親や家族にもしたくないと思っている人も増えてきています。そして、今、その相談相手が、インターネットになっているという、寂しい現実があります。
次号(3/4)では、家具業界の状況と何度も行ってみたくなるIKEAのショールームの秘密に迫ります。